自由主義国家において、「公平」という尺度が多様である中で、できるだけ多くの人が納得できる公正な社会を築こうとする物語。「社会とは公平であるべき」という人もいますが、「公平」というのは何をもって公平とするのか?その尺度は人それぞれかと。
【物語:『無知のヴェールの下で』】
ある国・エリシアは、古くから「社会とは公平であるべき」という理念を掲げていた。しかし、国民一人ひとりが「公平」と感じる尺度は異なり、時には意見が衝突することもあった。エリシアは自由主義国家として、個人の自由と多様な価値観を尊重する国であったため、国民はそれぞれ自らの経験や信念に基づいて「公正」について考えていた。
そんな中、エリシア政府は、国民全員がなるべく納得できる「公平な社会」のあり方を模索するため、画期的な市民会議「無知のヴェール会議」を開催することにした。これは、哲学者ジョン・ロールズの提唱する「原初状態」の考え方に着想を得たもので、参加者は自分の身分や能力、富や家族構成などの情報を一切忘れた状態で、社会の基本ルールや分配の原則を議論するという試みだった。
会議室には、若者から高齢者、学者、労働者、起業家、そして各地域の代表者が集まり、まずは「もし自分が誰にも当てはまらず、全くの無知の状態にあったとしたら、どんな社会制度が自分にとって望ましいだろうか?」という問いから議論が始まった。ある参加者は「全員が最低限の医療や教育を受けられる仕組みが必要だ」と主張し、別の参加者は「個人の才能や努力が正当に評価される競争制度も大切だ」と意見を交わした。
議論は激しくも、しかし互いに相手の意見を尊重する姿勢が見えた。最終的に、参加者たちは次の二つの原則で合意に達した。
- 自由の原則
すべての市民は、思想、信仰、言論、結社など基本的な自由を平等に享受すべきであり、政府はその自由を最大限に保障する責務がある。 - 機会均等と差異の正当化
すべての人が平等なスタートラインに立つための機会均等が提供される一方、もし格差が生じるとしても、その格差は最も恵まれない人々に利益をもたらすものでなければならない。
この合意は「公正な社会の契約」として文書にまとめられ、政府はそれを基に各政策を再設計することを決定。議論のプロセス自体が、国民に対して「あなたの意見も尊重される」という信頼感を生み、エリシアは少しずつ「納得のいく公平な社会」へと近づいていった。
年月が流れ、エリシアの市民たちは、新たな社会制度の中で互いの違いを認め合いながらも、共通の約束事に基づいて平和に暮らしていった。誰もが自分の「公平」の感覚が完全に一致することはなかったが、みんなが合意した基盤の上に築かれた社会は、多様な価値観を包含しながらも、最大限に多くの人が安心して生活できる場所となった。
この物語は、自由主義国家において、個々の自由と多様性を尊重しながらも、共通の対話を通じて合意形成を図ることが、公正な社会を実現する一つの方法であることを示している。
この物語は、ロールズの「無知のヴェール」や「正義としての公平」の考え方を踏まえ、自由主義国家での対話と合意形成を通じて、多様な尺度の「公平」をひとつの基盤にまとめ上げる可能性を描いています。