トランプ大統領になってから「貿易赤字」を意識し「相互関税」という名の多大な関税をかけて、アメリカ国内のサービス産業など3次産業に大きな負荷をかけている。世界の警察を自認してきたアメリカがここまで自分勝手な政策をとるのはなぜ?
ドナルド・トランプ大統領が「貿易赤字」を強く意識し、それに対する解決策として「相互関税」を掲げている背景には、彼の独自の経済観と、支持層へのアピール、そしてアメリカ経済の現状認識があります。
トランプ大統領の貿易赤字への認識と政策の背景
- 「貿易赤字は悪」というシンプルな認識: トランプ大統領は、貿易赤字を「外国に富が流出している証拠」と捉え、「アメリカが損をしている」という非常にシンプルな認識を持っています。経済学的には、貿易赤字は国内の貯蓄と投資のバランス(貯蓄不足)に起因するという見方が一般的で、必ずしも悪とは限りません。特にドルが基軸通貨である米国においては、貿易赤字が即座に危機につながるわけではない、という意見が経済専門家の間では主流です。しかし、トランプ大統領はこの経済学的な説明よりも、国民感情に訴えやすい「貿易赤字はアメリカの産業と雇用を奪っている」というメッセージを強調しています。
- 製造業の国内回帰と雇用創出: トランプ氏の主要な支持層は、かつて製造業で栄えた「ラストベルト」と呼ばれる地域の中間層や労働者階級です。彼らはグローバル化と自由貿易によって工場が海外に移転し、職を失ったと感じています。トランプ大統領は、関税をかけることで輸入品を高くし、国内生産の競争力を高めることで、工場を米国に戻し、雇用を創出できると主張しています。これは、自身の公約であり、支持層への強いアピールとなります。
- 交渉のカードとしての関税: トランプ大統領は、関税を単なる税金としてだけでなく、相手国との交渉における強力な「カード」として活用する意図も持っています。例えば、貿易不均衡の是正、防衛費の負担増、あるいは麻薬問題など、様々な外交・経済問題において、関税を圧力をかける手段として用いることがあります。
- 財政赤字の削減と歳入増: 関税収入を増やすことで、財政赤字を削減できるという考え方も背景にあります。大規模な減税政策を推進する中で、その財源の一部として関税収入を位置づける狙いがあるとも言われています。
- 「米国第一主義」の具現化: 「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」というスローガンは、内政・外交のあらゆる面で、他国との協調よりも自国の利益を最優先するという考え方を反映しています。貿易政策における「相互関税」や「保護主義」は、この「米国第一主義」を具現化する具体的な手段の一つと位置づけられています。
サービス産業への影響と「世界の警察」としての姿勢
ご指摘の通り、関税は主に物品貿易に課されるため、直接的にサービス産業(第三次産業)に大きな負荷をかけるものではありません。むしろ、製造業の保護を意図しています。しかし、関税による報復措置やサプライチェーンの混乱は、結果的にサービス産業を含む経済全体に悪影響を及ぼす可能性があります。例えば、製造業の減速が消費の落ち込みにつながれば、小売業や飲食業などのサービス業にも影響が出るでしょう。
「世界の警察」を自認してきたアメリカがこのような「自分勝手な政策」を取るように見える背景には、グローバル化の進展による国内の格差拡大や、自由貿易が必ずしも全ての人々に恩恵をもたらさなかったという認識が強くあります。トランプ大統領は、これまでの国際秩序や多国間協調の枠組みが、アメリカの国益を損なってきたという考えを持っており、国家の主権と経済的自立を回復することを目指していると言えます。
要するに、トランプ大統領の貿易政策は、経済学的な合理性よりも、特定の支持層の不満や不安に訴えかけ、政治的なメッセージを強く打ち出すことに重点を置いている側面が大きいと言えるでしょう。これは、彼が国民から直接選ばれる大統領であること、そして再選を目指す上での戦略でもあります。