アメリカ合衆国のトランプ大統領が大きな相互関税を決定し発表したかと思うと、わずかな時間で90日間の一時停止をするなど混迷しているようにも見えてきますが、トランプ大統領の本当の目的と、その後のアメリカや日本の経済がどのようになるのか

1.トランプ大統領の本当の目的

交渉のレバレッジとしての関税政策

  • 交渉カードとしての利用
    トランプ大統領は「アメリカ・ファースト」のスローガンのもと、長年の貿易赤字の是正や不公正と感じる外国の貿易慣行に対抗するため、関税を武器に交渉を有利に進めようとしています。特に中国には125%という非常に高い関税率を維持する一方で、他の国々(例えば日本、欧州連合、カナダ、メキシコなど)には90日間の追加関税停止という猶予措置を設け、これによって相手国に具体的な改善要求や譲歩を引き出すための交渉の時間を稼ぐ狙いがあると考えられます。

国内世論・市場反応の安定化

  • 市場と国民への安心感の提供
    高い上乗せ関税の発動は、米国内の製造業支持層には強いアピールとなる一方で、金融市場や一般市民にはコスト増や企業の不確実性という形で響き、経済全体の混乱を招くリスクも伴います。そこで、90日間の一時停止措置をとることで、実質的な平均関税率(基礎の10%)は維持しながらも、市場の混乱や債券相場・株式市場の急変動を一時的に鎮静化させる目的もあると見る向きがあります。

政治的戦略・交渉術としてのシグナリング

  • 交渉の余地と譲歩の要求
    大統領がわざと高い関税を発表することで、「アメリカ製品の保護」や「不公正な貿易慣行への対抗」を国内外に強くアピールするとともに、相手国側に譲歩や国内産業の規制緩和、補助金の削減などを引き出すための圧力として働かせる狙いがあります。この「硬い態度」と「柔軟な交渉態度」の二面性が、90日間の一時停止というタイムウィンドウに現れていると考えられます。

2.今後のアメリカ経済への影響

短期的な市場反応と調整

  • 急激なボラティリティと市場の回復
    実際、トランプ氏が90日間の一時停止を発表した直後、米国の株式市場ではS&P500指数が約9.5%急上昇し、2008年以来の大幅な上昇が見られました。しかし、これが示すのは市場参加者が「交渉の余地」とリスクがある程度軽減されたと捉えている一方で、根本的な不確実性は依然として残るという点です。

リセッションへのリスク

  • コスト上昇とサプライチェーンの混乱
    高い関税は米国国内での原材料や中間財のコストを押し上げ、企業の利益率を圧迫します。さらに、対中高関税が維持される中で、輸入価格の上昇が物価全般に波及し、インフレ圧力が高まる可能性があります。さらに、企業はサプライチェーンの再編を迫られるケースもあり、これが長期的な投資の先送りや景気減速へとつながるリスクが存在します。特に、米国内の景気後退(テクニカル・リセッション、すなわち2四半期連続のGDPマイナス成長)の可能性も懸念され、FRBの金融政策の行方が注視される状況です。

3.今後の日本経済への影響

輸出依存の打撃

  • 対米自動車や工業製品への関税影響
    日本に対しては、これまで自動車や一部の工業製品に24~25%の追加関税が課せられる計算となっていました。日本は対米輸出が経済において大きな割合を占めているため、この関税措置が長引けば、名目GDPに対して直接的な影響(例えば0.24~0.42%の下押し効果)が生じるとの試算もあります。短期的には、米国市場の不安定さから日経平均が大きく変動し、時には急反発する局面も見られましたが、市場参加者は引き続き日本経済に対する懸念と期待を抱えています。

サプライチェーン再編と企業戦略

  • 生産拠点の移転可能性
    米中貿易摩擦の激化と相互関税の発表は、日本企業にもサプライチェーンの見直しを迫る要因となっています。海外生産や現地法人による米国市場への直接輸出など、企業の戦略変更が求められる局面が予測され、これが中長期的には企業の収益構造や投資計画に影響を及ぼす可能性があります。

政策対応の必要性

  • 政府の補完政策と対外交渉
    日本政府は、米国との二国間交渉や多国間での貿易協議を通じて、関税措置の緩和を図るとともに、国内産業の支援策(例えば、金融支援や税制優遇措置)の検討も急務です。市場の混乱緩和と企業の競争力確保を目的とした政策対応が求められるでしょう。

4.総括

トランプ大統領の相互関税政策は、従来の一方的な保護主義政策の延長ではなく、交渉のための一時的なブレーキとしての側面を持ちながら、国内の政治的支持や市場の安定化、さらには対中国圧力のための戦略的シグナリングとして設計されているように見えます。しかしながら、その一方で、米国経済におけるコスト増大、サプライチェーンの混乱、そして米中・米日間の緊張の高まりといったリスクは依然として存在し、米国市場全体や日本の輸出主導型経済にとって中長期的なマイナス影響をもたらす可能性があります。今後の交渉次第で関税政策の内容や適用期間が変更されるとともに、政策の一貫性が問われる中で、両国政府や民間企業が迅速かつ柔軟に対応策を講じることが、安定経済運営の鍵となるでしょう。

 

Posted by 鬼岩正和