いわゆる「転売ヤー」を保護するかのように、「一般の卸売り・小売企業もやっていることは同じ」だから「転売ヤー」は悪くないという論調がありますが、「転売ヤー」のやっていることは流通の阻害でしかないように思います。

経済学的視点:「中間業者としての役割?」

  • 一部の経済モデルでは、スキャルパーは中間業者として「価格発見」や「在庫リスクの肩代わり」を担い、生産者にとって利益になる可能性もあるとされます。
    → 例えばCourty (2003)やKarp & Perloff (2005)は、スキャルパーが余剰在庫を処理し、消費者の信用リスクを引き受け、場合によっては生産者利益が拡大することがあると報告しています。
  • また、Mercatus Centerは「スキャルパーはリスクを負って価格調整をし、高く価値を置く消費者に届ける社会的サービスを果たしている」 と肯定しています。

つまり理論的には、卸売や小売も担う「マーケットメイク機能」を一部果たしているとされるわけです。

実際に流通を阻害している理由

  1. 消費者のアクセス妨害・価格高騰
  • リアルには、スキャルパーのせいで本来安価に買えるはずのチケットや限定品が市場価格より41%高く転売され、一般消費者の購入機会を奪うという報道があります 。
  • 特に希少商品では、転売価格が数倍に跳ね上がるケースも多発しています 。
  1. イベント主催者・製造者の収益漏出
  • 転売によって生じた利益はスキャルパーに流れ、本来主催者やアーティストが得るべき収益を奪います。これが長期的には業界全体の信頼と投資機会を損なう可能性があります 。
  1. ボット使用による公正性の欠如
  • スキャルパーはボットを使って大量に購入し、正規ユーザーの買い物機会を不公平に奪う構造的問題が指摘されています 。

🔄 卸売・小売との違い

一般卸売・小売 転売ヤー(スキャルパー)
供給役割 需要予測に基づき適正量を仕入れ、仕入れと配送の役割を果たす 人気商品を早期に買い占め、人工的な希少性を生む
価格設定 適正かつ透明なマージンで価格決定 需要を煽り、自由に価格を吊り上げ、価格発見は存在しない
流通への影響 安定供給・販路拡大に貢献 一時的には供給増のように見えるが、本来の供給構造を歪める
責任 在庫管理も含める企業責任を負う 購入→転売のみ。流通全体への責任はほぼ皆無

🎯 結論

  • 理論上の一部肯定要素(リスク分散や価格調整)はあれど、
  • 実際には市場の希少性を人工的に創出し、一般消費者や製品主に悪影響を与えているのが転売ヤーの現実の姿です。
  • 「一般卸売も同じだから転売ヤーは悪くない」という論調は、流通全体への影響と責任という観点で不適切といえるでしょう。

⚙️ 対応策と業界の動向

  • 規制(ボット禁止、購入制限):イーベイやTicketmasterなどで強化が進行中。
  • 価格調整(動的価格設定):転売を抑制するには、主催者側が「需要に応じて価格変動させる仕組み」を構築することが有効だとされています 。

つまり、「一般の卸売りもやっているから正当」という論調は、実際の経済構造と消費者への影響を無視していて、流通全体を阻害する側面が強いと断言できます。

Posted by 鬼岩正和