バレエダンサーが加齢とともに猫背(過度な胸椎前弯)になりやすいのは、単に「痩せている」ことだけが原因ではなく、加齢に伴う筋量・筋力低下、骨密度の減少、結合組織の脆弱化、さらに舞踊特有の姿勢習慣などが複合的に影響している
- 高齢者における過度な胸椎前弯(Hyperkyphosis)の要因
1.1 筋量・筋力の低下
加齢とともに体幹を支える背筋(特に脊柱起立筋)の筋量や筋力が低下すると、胸椎を伸展位に保持できず前屈しやすくなる。
背筋の筋力低下は、加齢女性でのHyperkyphosis発症と強く関連している。
1.2 骨密度の減少・椎体骨折リスク
加齢による骨粗鬆症や椎体骨折は、胸椎椎体の前方圧迫・楔状変形を引き起こし、前弯角度を増大させる。
一方で、高齢者のHyperkyphosis患者のうち約10~70%は骨密度低下を伴わない例も報告されており、骨粗鬆症以外の要因も大きい。
1.3 結合組織・椎間板の変性
加齢に伴い椎間板の水分が失われることで、椎間板高が低下し胸椎の前弯を助長する。
同様に、靭帯や筋膜などの結合組織も脆弱化し、前方への屈曲を抑える機能が低下する。
1.4 慢性的な姿勢習慣
デスクワークや運動量低下で姿勢制御が乱れ、いわゆる「猫背姿勢」をとり続けることで、胸椎前弯が固定化・進行する。
- バレエダンサー特有の身体的背景
2.1 若年期の脊柱アライメント
クラシックバレエでは「胸を張る」「背骨を伸展させる」姿勢が強く要求されるため、若年期のダンサーはむしろ胸椎が平坦化(過度に後弯が減少)しやすいことが報告されている。
2.2 引退後の身体変化
引退や練習量減少に伴い、
- 背筋をはじめとする体幹筋の使用頻度が著しく低下し筋量・筋力が落ちる
- 高度なバレエ訓練で維持されていた骨形成刺激が減少し、骨密度が長期的に低下する(女性ダンサーの引退後はコントロール群より有意に低い骨密度を示す)。
これらにより、もともと「胸を開く」動きを強くインプットされていた脊柱が、加齢的要因と重なって前屈しやすくなる。
- 「痩せている(低BMI)」の役割と限界
3.1 低BMIと骨密度の関連
エネルギー不足・無月経・骨粗鬆症を三位一体で生じる「Female Athlete Triad」により、低BMIはダンサーにおける骨密度低下の危険因子とされる。
BMIが低いほど骨形成に必要なホルモン環境が乱れ、成長期に獲得すべき骨量が十分でないまま固定化されるリスクがある。
3.2 しかし、低BMIだけでは過度な前弯を説明できない
前述のように、高齢者のHyperkyphosis患者の多くは骨密度正常例でも生じており、低BMIが直接的・唯一の原因ではない。
また、バレエダンサーの骨密度は体幹への荷重刺激によりむしろ維持・増加する面もあり、低BMIでも骨損失が必ずしも極端になるわけではない。
- 総合的評価と予防・対策
- 多因子的メカニズム:加齢性の筋力・筋量減少、骨密度低下、結合組織の脆弱化、慢性的姿勢習慣、女性ホルモン環境などが複合的に作用
- 痩せの影響:低BMIは骨健康を損なう一因だが、単独要因ではなく、栄養・ホルモン・負荷刺激が絡む
- 予防策:
- 体幹(特に脊柱起立筋)と下肢筋群の継続的な筋力トレーニング
- 適切なエネルギー摂取・栄養管理による骨量維持
- 姿勢矯正エクササイズ(胸椎伸展ストレッチ、肩甲帯安定化など)
- 定期的な骨密度検査と早期の骨粗鬆症治療検討
結論:バレエダンサーにおける加齢性の猫背傾向(Hyperkyphosis)は「痩せている」ことだけでは説明がつかず、筋力・骨密度・結合組織・姿勢習慣といった複数要因の相互作用によるものです。痩せを含むリスク因子を総合的に管理し、適切な筋トレ・栄養管理・姿勢ケアを行うことが重要です。