ペロブスカイト太陽電池は日本での生産の多いヨウ素を原料にしており、また、薄いフィルム状のため、日本国内での生産や利用に適しているように思えるのに、なぜ市場シェアがいまだに低いのでしょうか?
ペロブスカイト太陽電池は、日本での生産が多いヨウ素を原料とし、薄型・軽量で設置場所を選ばないという大きなメリットがあり、日本での普及に期待が高まっています。しかし、現状の市場シェアが低いのは、いくつかの重要な課題があるためです。
- 耐久性と寿命の課題
従来のシリコン系太陽電池が20~30年以上の寿命を持つ一方、ペロブスカイト太陽電池は、湿気、酸素、紫外線に非常に弱いという弱点があります。そのため、屋外での長期使用において、寿命が5~10年程度と短い点が大きな課題となっています。住宅や電力システムへの導入を考える上で、この耐久性の低さは、投資回収期間やメンテナンスコストに大きく影響するため、商業化の障壁となっています。現在、各企業や研究機関が保護膜や封止技術の開発を進め、耐久性向上に取り組んでいます。
- 大面積化の難しさ
ペロブスカイト太陽電池は、小さいセル(単体)では高い変換効率を達成していますが、これを大きなモジュールとして製造する「大面積化」が難しいという課題があります。大面積化すると、電気抵抗の増大や、製造プロセスでの不均一性により、変換効率が低下したり、ショート(短絡)が発生しやすくなったりすることがあります。量産体制を確立し、コスト競争力を高めるためには、大面積で安定して高品質な製品を製造する技術が不可欠です。
- 有害物質(鉛)の使用
現在の多くのペロブスカイト太陽電池には、鉛が使用されています。鉛は発電効率を高める上で重要な役割を担っていますが、環境汚染や人体への影響が懸念される有害物質です。そのため、製品の廃棄や製造工程における安全性の確保が重要となります。鉛フリー化を目指したスズや亜鉛ベースの代替材料の研究も進められていますが、現時点では鉛を使用しないことで効率が低下する傾向があります。
- 量産技術とコスト競争力
ペロブスカイト太陽電池は製造コストが低いと期待されていますが、これはあくまで理想的な量産体制が整った場合の話です。現状では、安定した品質での量産技術の確立、そして既存のシリコン系太陽電池と競合できるレベルのコスト競争力の実現が課題です。クリーンルームなどの特殊な製造環境が必要となる場合もあり、設備投資やプロセスコストも考慮する必要があります。
- 変換効率のさらなる向上
研究段階では高い変換効率を達成しているものの、実用化レベルでの変換効率は、シリコン系太陽電池と比較してまだ改善の余地があります。特に、モジュールサイズでの変換効率をさらに高めることが求められています。
日本はペロブスカイト太陽電池の基礎研究において世界をリードしていますが、これらの技術的な課題を克服し、市場で競争できる製品を供給するには、さらなる研究開発と量産化技術の確立が不可欠です。政府も導入支援策や研究開発への投資を進めており、これらの課題がクリアされれば、日本発の技術が世界のエネルギー転換に大きく貢献する可能性を秘めていると言えるでしょう。