土壌中の金属と結合して起こるリン酸の土壌固着により農業肥料などに多く利用されているのが多くの理由のようですが、リンが枯渇していると聞きましたが、これに対する対策はないのでしょうか?

農業肥料として重要なリン酸は、土壌中で「固定」されて植物が利用しにくくなるという問題が広く認識されています。これは、施用されたリン酸の多くが、土壌中のアルミニウムや鉄といった金属イオンと結合したり、粘土鉱物と吸着したりして、水に溶けにくい化合物に変化してしまうためです。特に、日本の土壌に多い火山灰土壌(黒ボク土)では、アルミニウムが多く含まれるため、このリン酸固定が顕著に起こりやすいとされています。

しかし、この問題に対しては、様々な対策や技術が開発・活用されています。主な対策を以下に示します。

リン酸の土壌固定に対する対策

  1. 土壌pHの管理と改善
    • 酸性土壌の改良: 酸性土壌では、アルミニウムや鉄が溶け出しやすくなり、リン酸との結合が進みやすくなります。石灰資材(消石灰、炭酸カルシウムなど)を施用して土壌のpHを適正な範囲(弱酸性~中性)に保つことで、リン酸の固定化を抑制できます。
  2. 有機物の施用(堆肥、腐植酸資材など)
    • 錯体形成と保護: 堆肥や腐植酸などの有機物は、土壌中のアルミニウムや鉄と結合して錯体を形成し、リン酸と結合するのを防ぐ効果があります。これにより、リン酸が植物に利用されやすい状態を維持できます。
    • 微生物活動の促進: 有機物の分解によって、土壌中の微生物活動が活発になります。中には、難溶性のリン酸を溶かす「リン溶解菌」や、有機態リン酸を植物が利用しやすい無機態に分解する「ホスファターゼ」を生成する微生物も存在し、リン酸の利用効率を高めます。
  3. リン酸肥料の種類と施用方法の工夫
    • く溶性リン酸肥料の活用: 水に溶けにくいが、根から出る酸によってゆっくりと溶ける「く溶性リン酸肥料」(例:溶りん、過りん酸石灰など)は、土壌中で固定されにくく、肥効が持続しやすい特徴があります。特にリン酸固定力が強い土壌で有効です。
    • 局所施用(側条施肥、深層施肥など): リン酸を土壌全体に散布するのではなく、作物の根の近くに集中して施用することで、リン酸が土壌中の金属イオンと触れる機会を減らし、固定化を抑制できます。これにより、少ないリン酸量で高い肥効が期待できます。
    • 初期生育時の重点施肥: 作物の生育初期はリン酸要求量が高いため、この時期に重点的にリン酸を施用することで、その後の生育を促進し、全体のリン酸利用効率を高めることができます。
  4. 微生物資材の利用
    • 菌根菌(アーバスキュラー菌根菌など): 菌根菌は、植物の根に共生する糸状菌の一種で、根の表面積を大幅に拡大させ、土壌中の利用しにくいリン酸(や水分)を効率的に吸収するのを助けます。菌根菌資材を利用することで、リン酸の吸収効率を高めることが期待できます。
    • リン溶解菌資材: 土壌中の難溶性リン酸を可溶化する能力を持つ微生物を培養した資材も開発されており、これらを活用することでリン酸の利用効率を高める試みが行われています。
  5. 高リン酸吸収能を持つ作物の栽培(緑肥など)
    • 一部の植物は、土壌中の利用しにくいリン酸を効率的に吸収する能力が高いことが知られています。このような植物を緑肥として栽培し、土壌にすき込むことで、土壌に蓄積したリン酸を一度吸収し、次作に利用させるという方法も考えられます。
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これらの対策は、単独で行うよりも、組み合わせて実施することでより高い効果が期待できます。土壌分析を行い、それぞれの圃場の土壌特性(pH、リン酸吸収係数など)を把握した上で、最適な対策を選択することが重要です。

リン酸は地球上の限りある資源であり、その効率的な利用は持続可能な農業を実現する上で非常に重要な課題となっています。

Posted by 鬼岩正和