日本の学校教育は30人程度の多数の生徒に対して同時に同様のことを教育し、それぞれが理解することを求めているのでしょうか?どうしても落ちこぼれ等が発生すると思われるのですが、現在の教育制度はその点をどのように理解し是正していこうと考えているのか?
日本の公立学校では伝統的に1クラス30名前後の集団に対して同一カリキュラム・同一ペースで授業を進め、「全員理解」を目指してきました。しかし、学力や興味・関心、学び方のスタイルは児童生徒ごとに大きく異なるため、どうしても学習についていけない子(いわゆる「落ちこぼれ」)や逆に物足りなさを感じる子が出てしまいます。
個別最適化学習への政策的転換
1.学習指導要領の改訂(2020年度実施)
- 「主体的・対話的で深い学び」(アクティブラーニング) の導入により、児童生徒自身が問いを立て、協働して解決策を探る授業形態を推進。
- 「学びの基盤」 として、情報活用能力や問題発見・解決能力の育成を重視し、画一的な知識詰め込み型授業からの脱却を図っています。
2.GIGAスクール構想によるICT活用
- 児童生徒一人1台端末と高速ネットワーク環境を整備。これにより、学習管理システム(LMS)を通じた理解度チェックや、個々に最適化された教材配信が可能に。
- 教員は端末を使ってリアルタイムに小テストを実施し、理解度の低い生徒にだけ補足説明動画を送るなど、「いつでも・どこでも」個別フォロー を実現しています。
学校現場での具体的な対策
- 少人数指導・習熟度別クラス編成
- 学習内容や単元ごとに複数教室に分け、理解度に応じて異なるペースで進める。
- 教科担任のほかにスクールサポートスタッフ(学習支援員)を配置し、教員と連携して補習や個別指導を実施。
- 通級による指導・特別支援教育の充実
- 発達障害など学習面で配慮を要する児童生徒には、通級教室での個別指導プログラム(IEP=個別の教育支援計画)を策定。
- インクルーシブ教育を推進し、通常学級と通級を組み合わせながら、得意不得意に応じた支援を行います。
- 授業改善サイクル(PDCA)とフォーマティブ・アセスメント
- 事前の「つまずき予測テスト」→授業→小テスト→振り返り→再指導、というサイクルを短期間で回し、理解度に応じた再学習を確実に実行。
- 生徒自身による「学びのふりかえりシート」を活用し、自分の理解度を可視化・自己調整力を育成。
- 放課後・長期休業中の学習支援
- 学習会や夏期・冬期講習を校内で実施し、ボランティア教員や大学生チューターを招いて個別フォロー。
- 地域と連携した学習支援プログラム(学習支援地域本部)により、民間の学習塾やNPOとも協力して学習機会を拡充。
課題と今後の展望
- 教員の負担増
個別対応やICT活用には準備時間や研修が必要で、多忙化が一層進む恐れがあります。 - デジタル・デバイド
家庭のICT環境格差により、校内での学びを家庭学習につなげにくいケースも。 - 支援の質の地域差
都市部と地方、あるいは財政力の差で、支援体制の充実度にばらつきが出る問題があります。
今後は、教員の働き方改革と連動した支援スタッフの配置強化、公民連携(PPP)による教材開発・研修体制の構築、そしてエビデンスに基づく教育政策(EBE:Evidence‐Based Education)の導入を進めることで、より効果的な個別最適化学習の実現が期待されます。
まとめ
日本の現行制度は、従来の「一斉授業」モデルから脱却し、ICTや少人数指導、特別支援教育、放課後学習支援など多層的な手法を組み合わせることで、児童生徒一人ひとりの理解度や学習ニーズに応じたフォローを強化しています。しかし、教員の働き方や地域間格差といった課題も残っており、今後は官民協働やデータ活用によるPDCAサイクルの高度化が重要となるでしょう。