
時計の針が23時を回った頃、静まり返った家の2階で男は仕事に没頭していました。あとわずかで今日の作業が終わる、そんな小さな達成感を覚えた瞬間に、下の階から聞いたこともない金切り声が響き渡りました。それは90歳を超える父親の介護を1人で背負ってきた、母親の取り乱した叫び声でした。
男が慌てて階段を駆け下りリビングの扉を開けると、そこには床に倒れ伏す父親と、涙で顔を濡らしながら必死に胸をさする母親の姿がありました。119番に電話を繋ぐと、受話器の向こうから冷徹な指示が飛びます。すぐに心臓マッサージを開始してください。1分間に100回、強く、速く、絶え間なく。
男は過去の講習を思い出しながら、父親の動かない胸に両手を重ね、全身の体重を乗せました。その瞬間、ゴリッという鈍い音が手のひらを通じて伝わってきました。骨の軋む不快な感触に顔をしかめながらも、男は必死に手を動かし続けました。
